CLUBゆり太へようこそ・・
自分の言いなりになるなら 「店を出してやる」
更に 事実かどうか不明ながらも
ママの本音まで 聞かされ
その言葉に悔しさと怒りを感じずにはいられない
そんな ゆり太に対し
鬼瓦は まるで
決断を迫るかの如く 店を出ようとしている・・
今日はそんなこと書いていきますので
どうか最後まで お付き合い下さいな。。
焼き肉店を出た私は タクシーに乗っていた。
夜が明け 白々と明るくなりかけた空を 眺めながら睡魔に襲われる
眠ってしまっても大丈夫・・ミヤさんは 長年 私を家まで運んでいる。
50代半ばぐらい? 彫りが深く 整った顔立ち 若い頃は絶対モテモテだったはず。
そんな 渋くてダンディーなミヤさんは ヤリ手の運転手。
私のように毎日タクシーを使う客がいつも どの時間帯に
どの辺りでアフターなのか? 大体把握しており
「ゆり太さん 今どこですか?今日乗りますか?」と 営業をかけてくるのだ。
ミヤさんが忙しくて来れない時は 自分の「枝」の運転手さんを紹介してくれて
いちいち道を説明しなくても ミヤさんがきちんと代わりの人に 伝えてくれている
だから いつも安心して 寝落ちする事が出来た。
「店出るまでに 返事しろ」
返事など関係無しに 鬼瓦は勝手に席を立ちドアに向かって歩いている
私もダラダラ立ち上がると 鬼瓦はすでに外に出ていた。
店のドアに手をかけようとした その時
「お客さーん スミマセン」
振り返ると お店の男性スタッフが伝票を差し出して
「お会計 まだなのですが・・」
「・・・・・・・・・・!!」
(は???マジかよ あのクソオヤジ)
力を込めてドアを開け 店の前でタバコをふかしている鬼瓦に 伝票を突き出した。
「払って下さいよ! 力になるとか 言ってましたよね?!」
もう 言葉を選ぶ気にもならず 切れ口調で ぶつけた。
支払いを本当に忘れていたのか??
鬼瓦は少し慌てて 足でタバコを地面に擦り付け 店の中に入っていった。
意図的? 故意的? もはやどっちだろうと関係無い!
アフター誘うなら 本来女の子の帰りのタクシー代だって 客は払うべきなのに
タクシー代どころか コイツは自分の飲み食いした金まで とぼけようとしたのか??
マジでふざけてる!!
イライラしすぎて どうにかなりそうだった!!
ちょうどそこに 「ゆり太さ~ん」
助手席側の窓を開けながら ミヤさんがゆっくりタクシーを寄せてきたのだった。
ミヤさん マジでスゴすぎる・・ この人は客の動きを本当によく把握している。
呼んでないのに来てくれる まさにタクシー運転手の鑑・・・
会計に戻った鬼瓦は まだ出て来ない
私はひどく疲れていた・・
あんなクソ野郎に挨拶など無用だ。
そのままミヤさんのタクシーに乗り込んだ。
鬼瓦にどう思われようが 初めから 本当にどうでも良かった
そもそも 自分の客ですら無いんだし・・
気がかりなのは 鬼瓦を置いて とっとと帰ったこの事を ママにどう報告すべきか・・
いつも 昼過ぎか夕方前 ほぼ毎日ママと
その日の予定や女の子のシフト
お客さんとのやり取りなど 打ち合わせも兼ねて 電話してから出勤していた。
けれども あの口論以来 それまで毎日続いた
電話ミーテイングも途絶え 店で業務連絡や 必要最低限の会話に留まっていた。
自分の客である鬼瓦が 私とアフターに出た事を おそらくママも気にはなっているはず
それまでなら普通に 「もう~ママ聞いて下さいよ~アイツふざけてるんですよぉ~」と
昨日の一件を全てぶちまけていたと思う・・だけど・・
「横一線全部一緒」
鬼瓦から聞かされたその言葉が
まるで呪文のように グルグルと渦を巻き 心も感情もかき乱され どうしても自分の方から
ママに連絡する気を起こらなくさせていた。
そして何より 鬼瓦に挨拶せず(する必要は無かったと思っているけど)
さっさと 帰ったことで
「テメー!! 人の客を何だと思ってんだ?!」
そう 再び ママに怒鳴り散らされるのも 面倒で仕方が無かった。
そうは言っても このまま なし崩しになんか出来るハズも無く・・
翌日の営業終了後 集計中のママに 恐る恐る声をかけた。
鬼瓦との出来事を ありのまま 全て話した
「そう・・・」
伝票から1度も視線を外すこと無く ひとこと 言っただけだった。
怒鳴り散らされはしなかったけれど
あんなクズ客のせいで こっちは・・本当に頭に来ていたところに
更に 話をしに来た私に 顔すら向けない ママのその態度が余計にムカついた。
それまでなら ボーイのカウンター内の片付けを 手伝ったりしながら
ママの集計作業が終わるのを待ち お互いアフターがない日は
2人でご飯を食べに行った。
そこでも その日を振り返りつつ 翌日の営業の話をし
タクシーで先にママを家まで送り 自分も帰ると言うのが当たり前だった。
気まずい沈黙がしばらく続き
これ以上 話が続かない事を悟ると さっさと この場から立ち去りたくなり
お先に失礼します・・・そう言いかけて
ふと 別な言葉が浮かんだ。
そう ずっとずっと 本当は それを言いたかったんだと思う。
「イヤなのに 辞めれない」
鬼瓦が 最初に言い放った言葉・・悔しいけど それは事実なのだろう。
前の日に 聞いたママの本音とやらが 全て本当かどうかは別として
あの 激しい口論から 私はそれまでのように
素直にママに着いていこうとは 思えなくなっていた。
その理由のひとつが 売り上げだった。
店のトップであるのに ママが誰も客を呼べない日が だんだん目立ち始めた。
ここ数ヶ月 私がママの売り上げを上回る事も珍しく無くなっていたのだ。
そこを理由に あの日ママに意見したつもりはないけれど
ママには偉そうに聞こえたのかも知れない・・
だけど 純粋に私は ママのワンマンなやり方に周りが疲弊し 離れて行っている
そんな店の状況をどうにかしたかった・・それだけだったのに・・
取り留めの無い やるせない思いと 悔しさと 悲しさ
それらがグチャグチャになり 耐え切れない思いを吐き出したくて仕方が無い
帰りかけ・・ 再び カウンターで集計しているママの方を向き
「ママ 私 店 辞めます。」
ペンを挟みながら電卓を打つ ママの手が一瞬止まった。
やはり 伝票から視線を外すことは無く ママは無言だった。
少し 間があいて
「考えさせて」
私はそれを 背中で聞き店を出た
私は もう ここにいちゃダメなんだ
本当はずっと 辞めたいと思っていたんだ・・私・・やっと言えた・・
エレベーターの中で力が抜け 少し自由になれた気がした。
これでいい・・これで良かったんだ・・
また続きでも・・
今日も ここまで お読み頂きまして ありがとうございました。。
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