CLUBゆり太へようこそ・・
夜の世界で 長年 生き抜いてきた ヒモ男テルさん
一緒に 仕事をして来た中で
いつも 優しく 気にかけてくれていた
そんなテルさんから 連休明けの閉店後
突然 ゆり太は誘いを受け
2人で 出かけることになり・・
今日は そんなこと書いていきますので
どうか最後まで お付き合い下さいな。。
連休明け 5月の深夜は まだまだ寒い
長めのコートを羽織っていたけど 酔いが一気に覚めるほど
冷たい風が吹いていた。
店の前は 客を拾うタクシーと
見送りに出ている 何処かの店の 従業員達でごった返している
閉店直後の 慌ただしいピークは 過ぎていたものの
通りは ザワザワして昼間のように 明るい。
少し前を歩く テルさんの背中を見ながら
なんとなく テルさんが自分を誘った理由を 考えていた・・
私が 店を辞めることは 他の女の子達には言っていない
けれど テルさんは ママに聞かされているはず・・
辞めることだけじゃない
きっと 私がママと 言い争ったことだって
全て 知っているのだろう・・
ママよりも 年上のテルさんだけど
いつも ママを立て
時にママの 感情に任せた怒りも やんわりと受け入れ
やり過ごす場面も 何度かあった。
だから これまで 私が
どんな気持ちで 店に出ていたのかも
きっと テルさんには 語らずとも 伝わっている。
少し先で テルさんは 知り合いの同業者に 声をかけられている。
上着の胸ポケから タバコを取り出し
くわえた口元を 手の甲で隠しながら素早く 火をつける
テルさんの この 口元を隠す仕草が独特だった。
私は タバコを吸わない人間なので 火を点ける時 どうするのが普通なのか??
全く 知らない
大概 タコのように口元をとがらせ
くわえたタバコの先端に 火を持って行く姿は よく見かけるやり方。
テルさんはのソレは
この タバコをくわえた時の タコみたく
『ブサイクになる一瞬も 見せない』
少し顔を伏せ まるで 内緒話をする時の様に
手を「く」の字っぽく曲げ 口元に持って行く・・
なんとも言えない その仕草も
昔 お世話になったママから 教えられたのだと 言う。
それも 私が気になって 尋ねたから 答えただけであり
テルさん自身は 至って無意識
自然にその振る舞いを 身につけていたのだ。
少し離れた所から
テルさんが ゆっくり煙を吐き
時折 笑い声を上げ 同業者と 話す姿を見ている。
この 離れた場所で待つこと
店を出て テルさんと並んで歩かず
離れて 後ろを歩いていたのも
何となく・・ 周りからの『誤解』を 防ぐため。
誰に そうしろと 言われたわけでは無いけど
私は この街で
客以外の男と 歩く時は 並んで 歩かないようにしている。
テルさんに女がいるのは 同業の間では 周知のことだし
私のような 小娘にテルさんが手を出すなんて
誰も 思わないのも知りながら
私に 金を落としている客に対する 『予防線』であり
また 『気遣い』だと 自分の中のルールとして 勝手にそうしていのだ。
「なんでも 好きなモノ 食えよ」
ママの店とゴミ松の店 その ちょうど 中間の通りにある
もんじゃ焼き屋で テルさんと2人 向かい合って座っている。
最初 ホルモン焼き屋にするか?と 聞かれたけど
店が終わった後の ホルモンは 胃腸のコンディション的に 厳しかったので
この店にしてもらった。
ここは ママや店の女の子達とも しょっちゅう来ていたし
サラダやデザートなど あまり胃腸に負担が かからないメニューも
充実していた。
何より よく来る この店の方が 少し 気楽だった。
メニューを見ながら 何となく テルさんの視線を感じた・・
やっぱり 目が合う。
テルさんの 何か言いた気な表情を
ただただ 見つめていると
先に頼んだ ビールが運ばれて来た。
お陰で
その 何とも言いがたい 微妙な空気が
一端 途切れて ホッとした。
ジョッキを合わせて お互いに ひと口飲みながら
何となく テルさんの言葉を 私は待っていた。
「店 辞めるんだろ??」
想像した通りの 言葉だったけれど
やっぱり 戸惑ってしまう・・
テルさんの 黒光りする肌から浮き出るように
その目は じっと私を見ている
「うん・・ もう無理だなって 思って・・」
何が 「もう無理」なのかなんて テルさんは
とっくに知っている。
だから 決して私を引き留めようとか
ましてや ママの差し金か何かで 私を誘った訳では ないのだろう。
「まあさ ゆり太も 色々あってのことだろうけど・・」
「ママはゆり太のこと ママなりに考えてる・・」
この 言葉も 何となく 聞く気がしていた・・
そこに 続けて
「店を辞める時期とかも ママは 結構迷ってた・・」
「連休中まで 自分の店に置いとけば
娘(長女)とも 一緒に過ごせるんじゃないかとか・・」
ビールを口元に運びながら
テルさんは まるで 子供に 諭すかのように 言った。
ママに 言わされてるとは 思ってなんか いないけど
正直 今更そんな話は 聞きたくなかった・・
「うん、でもさ 私 決めたんだもん・・」
そう言って 黙りこくる私に
テルさんは ニヤっと表情を崩し
「だよな! ゆり太も 充分 頑張ったよな」
「仕方ないよな」
いつもの ご機嫌取りしてくる テルさんの口調に
「もうママに怒られるの 飽きたから(笑)」
泣きたいような 笑いたいような 変な気持ちだったけど
そこから テルさんも 私が辞める事については
もう 何も言わなかった。
大して飲んでもいないのに ビールがやたらと効いて
少し フワフワした頭で もんじゃ焼き屋を出ると
再び 深夜の冷え切った空気で 酔いが吹き飛ばされた。
会計を済ませたテルさんに
「ごちそうさま・・」と 言いかけて
何故だか 私は 泣きだした・・
ずっと 信じて ついて来たママとの こんな形の別れが 悲しくてなのか??
誰にも そんな 悔しい思いを
打ち明けずにいる孤独に 耐えかねてなのか??
自分でも 良く分からない
勝手に 涙がこぼれる・・ 止まらない・・
何か 言葉を探そうとするのに
見つからない・・
見つからないのに
涙は 次々 こぼれてる・・
テルさんは 私の顔を覗き込み
クスクス笑い 泣き止むまで 胸をかしていた
離れて 歩いていたのに・・・
また続きでも・・
今日も ここまで お読み頂きまして ありがとうございました。。
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