誕生日そして命日⑦。。

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stanbalikによるPixabayからの画像

~最期の会話~

病室は廊下の突き当りの部屋だった。

アルミサッシとガラスで囲われた個室に父は移されていた。父の死後 知ったのだけど 父のような余命わずかの患者が大部屋から個室に移されるのは いつ何が起こるか分からない場合に取る措置らしい。病床の関係で全てがそうとは限らないけど、父はそう判断されたからなのだろう。

実際 私が生きている父の姿を見たのは この日が最後だった。

病室に入ると 広いガラス窓から明るい外の景色が見えた。大部屋の時は窓からは遠い入り口横のベッドだったから 外の様子も分からないし 何より隣のベッドとはカーテンで仕切られてるだけだった。

そこからすると 決して広いスペースではないものの かなり開放的に思えた。

父は ベッドを起こしたまま うたた寝してた。近くにあるテレビから音がする。少し前に お嫁さんからテレビカードが あっという間に無くなると聞いたけど こうして つけっぱなしで ほとんど寝てるからだろう。

父は 私が入って来ても気付かなないまま うとうとしている。

また 暴れだしたりしたらどうしようかと思っていたから 父が寝てて ほっとした。

テレビカードが勿体ないと思いリモコンを取ろうとした時、急に父が目を覚ました。

「なんだ、来てたのか?」

相変わらず ぶっきらぼうな言い方だけど興奮している態度では無かった。

「どう?具合は?」

窓の外を見ながら聞いた。

「悪いよ」

窓の外を見て父も答えた。

いつ死んでもおかしくない人間が具合が良いはずなど無いのに バカな質問だと思った。

「テレビ 見てないなら消そうか?」

「見てるよ!」

いや、寝てたじゃん、心の中で思った。

そう言えば

家を出て行った母も 「寝てるから消したのに見てたって言い張るのよ!」と、よくぼやいていた。

その時は笑い話だけど 今 目の前の父は もしかするとテレビの音でも聞こえてないと不安だったのかも・・・わからないけど・・・

その日も 会話は続かない。 ベッド脇に この前持ってきたオムツが まだけっこう残っていた。

その上のテーブルみたいなスペースに トラベル用の ミニサイズのシャンプーがあった。

お嫁さんが買って来てくれたんだな… そんな事を ぼんやり思っていると、

父が 「今日 ゆり太兄は 来るのか?」 突然 言った。

「え?お兄ちゃん? えーとー今日はーお兄ちゃん、どうなんだろうなー?」

兄は仕事で来れないから 今日 自分はここに来たのだ。

何故 普通に 来ない事を伝えられなかったのか 今でも よく分からないけど、 多分 父が可哀想だったのかもしれない。 私より お兄ちゃんに来て欲しかったのかもしれない。 

それが 父との 最期の会話だった。 あの時が最期と分かっていたら

他に どんな会話をしたんだろう・・・?

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