~父と再会した日~
病院玄関と駐車場がやたら離れていた。
梅雨明けの激しい日差しの中 急勾配の坂を上ると やっと病院の入り口が見えた。
汗だくになり大きなお腹で 余計に息切れがスゴかった。エレベーターに乗り込んでからも汗が吹き出て止まらない。びしょびしょの前髪からコロコロ汗が落ちてくる。
お嫁さんから聞いた病棟のボタンを押した。
エレベーターを降りると横浜の景色がまるごと見えた。とても見晴らしが良く 花火大会の時なんてスゴイだろうな・・・と、場違いな事を考えながら ナースステーションで父の病室を尋ねた。
私は あの 盗人呼ばわりされてから父が恐ろしくて近づけずにいた。 また もし私を見て父が暴れだしたら・・・他の患者さんもいるし 迷惑になるかも・・・
少し考えて 看護師さんに事情を伝え 一緒に病室まで付いて来て貰った。
病室は6人部屋だったけど2つくらいベッドは空いていた。入ってすぐ 入り口横のベッドに父はいる様だった。
私は 廊下で一先ず待ち 看護師さんが先に父に声を掛けに入った。
「ゆり太父さん、娘さんみえてますよ~!お会いできるかしら?」
ハキハキした看護師さんの声が聞こえて 中に呼ばれた。
「おとうさん、わかる?ゆり太だけど」
「わかるよ、そんなの」
ぶっきらぼうに聞こえたけど、いつだか実家で見た姿より健康状態は良さそうに見えた。
ここに運ばれた時は自力で起き上がる事さえ出来なかったと聞いていたけど
目の前の父は ベッドのリクライニング無しで座る事が出来ていた。
ぼーっと 突っ立っている私に父は
「なんか 食べ物ないの?パンとかビスケットとか」
父は喉の広範囲にガンがあり それが肥大化して呼吸もしづらい状態にまでなっていた。
口から食べ物を入れると誤嚥を起こしたり 窒息の危険があるから もう全て点滴からしか栄養はとれないのに やっぱり口から物が食べたいのだ。
「ここに来てから 何も食べさせて貰ってないんだよ。」
父は不満げに言った。何も知らない父との会話は 全く続かない。
思わず
「そうか、じゃぁ看護師さんに聞いてみるよ」
そう言って病室を出た。そう言うしか言葉が見つからなかった。
当然 パンとかビスケットなんて与えて良いはずなどなく 看護師さんにお礼と挨拶をして そのまま帰ってきてしまった。
父は 私が看護師さんに食べ物の確認をしてると思い 病室で待っているのだろうか?
それか 認知症だから 私が訪ねたことも忘れてるかもしれない。
その方が 気持ちはラクだった。
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