~盗人になった娘~
廃車の手続きは兄がやった。病院にも 兄とお嫁さんが連れて行ってくれた。
ある日 私が実家に行くと、父の様子がおかしかった。
私を見るなり
「オマエのせいだ!オマエが車を壊したから仕事に行けなくなった!!」
「車のカギを盗んだのも オマエだ!!」
いきなり掴みかかられた。私は何が起きてるのか全く分からない。今にも殴りかかってきそうな父を振り払い 急いで玄関を出た。
認知症の症状では よく見られる被害妄想なのだけど
本当に恐ろしく そして腹が立ち 悔しさと悲しさで涙が出た。病気のせいだと分かっていても
手のかかる ぱる太を連れて 自宅と実家を往復するのだって大変なのだ。
それなのに このクソジジイときたら私を盗人呼ばわりして・・・
いっそ 死んでくれたらいいのに・・・
ひどい事のようだが 認知症の家族を持つ方の中には少なからず 同じような思いをした方も居るかもしれない。金銭的にも体力的にも しんどかった。
しばらくしたある日
父を病院に連れて行こうと お嫁さんが訪ねると 父は自力で起き上がる事すら出来なくなって居たのだ。 運転免許を持たないお嫁さんは 外でタクシーを待たせていた。運転手さんに相談すると運び出せたとしても タクシーでは無理だから救急車を呼んだ方が良いと言われて
父はそのまま運ばれ 更に 余命宣告を受けたというのだ。
ガンがあり、既に転移も見られ 治療ではなく 『緩和ケア』で なるべく苦痛を取り除く方法が
本人にとっても負担が少ないというのが 先生からの説明だったそうだ。
その頃 私は3人目がお腹にいて 9か月に入るところだった。
お嫁さんは 私が盗人呼ばわりされ、掴みかかられた事だけでなく 妊娠中の私の事を とても気遣ってくれていた。
それでも 放っておくわけにも行かず 車で1時間程の 同じ市内の病院に車で向かった。
運転中 お腹の子が にゅうぅうんと ゆっくり動いていた。もう お腹が狭すぎて 激しくポコポコしづらくなってきた この子は 父と会うことなんてあるのだろうか・・・??
ふと、そんな事を思った。
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