~安否確認~
お巡りさんに促され 合鍵を回した。何年ぶりかに開ける実家のドアが こんなに重たく感じたことは無かった。
恐る恐る ドアを開くと昼間なのに玄関は真っ暗だった。
靴を履いたまま
「おとーさーん、いるのーー?!」 大声で叫んだ。
すると、玄関入って すぐ真ん前の部屋の襖が すーーーっとあいて 中から老人が出て来た。
「!! !! !!」
私も お嫁さんも お巡りさんも 一同に 驚いた。
その老人は髪も髭も真っ白で 手足は枝のように細く 修行を極めた仙人のような姿をしていた。
元々 太ってはいなかったけど 以前とは別人のように変わり果てた姿・・・
それは 私の父で間違い無かった。
スローモーションみたいな動きで玄関に座り込み
「なんだ?どうした??」
あまりに拍子抜けな言葉を発した。
「電話も繋がらないし、ピンポン鳴らしても出て来ないから なんかあったかと思うでしょ!!」
ほっとはしたものの 怒りのような感情も沸いてきた。
すると
「ああ・・・仕事行けなくて 金もなくて 電話代も払えなくて」 悪びれることなく 父は言った.
お巡りさんは
「ご家族で間違いないですか?大丈夫そうですね?」 と、おっしゃり
ご迷惑をお掛けして申し訳無かったことと お礼を伝えると バイクに乗り交番に戻って行った。
お嫁さんも 心配そうに父に語りかけている。
父は個人タクシーだから 仕事に出て来なくても誰も連絡などしてこない。そして仕事に行かなければ1円もお金が入って来ないのだった。
ひとまず、その日すぐに 食べれる物を置いて帰って来た。
私は区役所に電話をした。民生委員さんが実家を訪ねてくれる事になり、そのやり取りの中で父に
認知症の症状あると知ったのだ。
まだ64歳の父だけど あの 安否確認をしに
行った時の父の姿は90代と言っても そう見えるだろうというくらい 異常に年老いていた。
認知症の父が車の運転、ましてや お客さんを乗せるなんて有りえない事だ。
私は営業車を廃車にするために車のカギを出すように言った。
痩せ細った父は
「もう体もしんどいし 自分でなにか考えるのも出来ない」 そう言って弱々しくカギを差し出してきた。 実家のすぐ近くに駐車場を借りていた。そこに停まっていた営業車のフロント部分がヘコンでいるのを見て驚いた。
やっぱり まともな運転なんて出来ない状態だったのだ。そんなんで運転していたなんて・・・
とてつもなく 恐ろしいことだった。
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